dmachiの日記

読書メモなどです。

読書メモ

同調圧力鴻上尚史佐藤直樹著2020年。世間について論評してきた二人の対談。一回目の対談が5月だという。だから対談に同調圧力に対する警戒心がよく表れていた。5月と今11月では世の中の雰囲気が少し違う。新型コロナという未知のものに対する警戒心が当時は今より強かった。本書では同調圧力の弊害やそれを生み出す世間の弊害がより多く語られる。いいところは少しだけ語られる。時期を思えば理解できる。

・世間と社会は違う。世間は関係のある人たちで成り立つ。社会は知らない関わりのない人たちで成り立つ。日本には世間はあるが社会の観念が乏しい。
・鴻上氏による世間の特徴として
①贈答が大切②年上が偉い③同じ時間を生きることが大切④神秘性⑤仲間はずれをつくる
・世間は、世間様というように人格化され得る。
・世間にはウチとソトがあり、ソトには違う世間があり、たくさんの世間が島宇宙のように存在する。
・佐藤氏によると1990年代以降、それまでの共同体の束縛から離れる変化が、反対に共同体に再び埋め込まれる現象が起きている。
・家族が犯罪を犯した時に謝るのは、法のルールに反したということと同時に、共同体の共同感情を毀損したからということになる。
・世間は今、中途半端に壊れている
・世間の弊害を少なくするためには、複数の弱い世間に所属するという戦略が有効ではないか。
・佐藤氏による世間の特徴
①贈与、互酬の関係②長幼の序③共通の時間意識④個人の不在⑤変革は不可能⑥集団主義的⑦非合理的・呪術的な関係⑧聖/俗の融合⑨儀式性の重視⑩排他性ウチソトの区別⑪権力性

世間といえば阿部謹也氏の著書がたくさんある。本書は性質上つっこんだ細かい議論はないので、諸々の論点も気になった。ただわかりやすく説明されたものだけでも、認識し理解することで世間との折り合いがつけやすくなると思った。佐藤氏が述べたように伝統ゆえ世間は無くならず、キリスト教圏の告解の伝統が個人の地盤となったというならば、そうでない世間をある程度自覚し弊害を薄める方向性がいいのではないかとは思った。世間のある世の中での個人もいるとも思う。また、新自由主義以降の世間のバラけ具合が気になる。そのことを具体的に理解してみたいとも思った。世間というものが当たり前の現実の観念だろうから論じにくいものだろうなとも思うが。そしてまた今の時代、世間自体の変質という論点もあるのかなあと思った。