dmachiの日記

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感想『教養としての世界史の読み方』

 2017年本村凌二著。著者は古代ローマ史が専門の歴史家。歴史を知っている人の深みを感じた。歴史の見方に厚みがある。錯綜する視点が著者の論点によって巻き上げられている。だからこの本から学べることは多いけど簡単に学べなあとも思った。色々初めて知ることもあったが、その中で大陸では民族の移動の影響が大きいこと。ある民族が多数移動してくると、その国での多数派がその民族になってしまうという状態を大陸は何度も経験してきた。その影響への感度はこの本にある通り日本はあまり持っていない。

 産業革命がなぜ18世紀イギリスで起こったかは専門家の間でも結論は出ていないらしいが、著者は、当時尽きてきた資源としての木材に代わる石炭がイギリスで取れたこと。そして、生産が活発になり人口が増加したときにちょうど、新大陸に人口の行き場があったこと。それらが主な要因となって大量生産と経済発展が進んだという。

 あと、気候変動が歴史的に人々の暮らしに大きな影響を与えたことも面白かった。中世には気温が下がり農作物の生産量が大幅に下がった。古代のシュメール文明では一粒の麦から70粒できたのに、中世初期には一粒から五粒しかとれない時期があったという。気候変動による乾燥化や寒冷化は民族の移動にも影響する。ローマ帝国の衰退の要因になったゲルマン民族の移動も、寒くなったから暖かい西ヨーロッパへ行きたかったからだ。フン族ゲルマン民族への脅威もあったにせよ気候変動が大きかった。

 本書では世界史を見ているけど、それこそタイトル通り、その読みが、社会体制や政治体制や気候や宗教や人のモラルや東洋と西洋の文化の違いや人の心の在り方などいろいろに読んでくれている。文字が出てきて過去の文明5000年を考えてもそのうち3000年以上が古代。その古代の中にも歴史の循環がある。まして文明以前の歴史は長い。時代時代に国や都市の絡みがあり、土地土地の特徴があり、現代に続いている、その細かな知識を知るのは大変だ。歴史学は知識の量と正比例して学べる学問らしく、本書の厚みを見ればどれだけの知識かということだけど、逆に言えばおおざっぱにでも知ればそれだけわずかでも正比例に学べることでもある。それに、歴史は人の営みの跡でもあるから、歴史は人に関わる物事全般に関わるとも言える。だからどういう興味で歴史を読むかで見え方が変わる。そしてそれは逆にいえばどういう教養でもって歴史を読むかで知ることも変わってくるとも言える。当たり前のことを言っているだけだけど、簡単に言えば本書にはいろいろなものがつまっていてそれを一般向けにわかりやすく書いてくれてある。だから読んだけど全部頭につまった感じがしない。何かひっかかるところがいろいろあってそれをそのままにしたという感じだった。