dmachiの日記

読書メモなどです。

読書メモ

『音楽の危機』岡田暁生、2020年,。面白くて先が読みたくなる本だった。著者の本は『西洋音楽史』と『音楽の聴き方』も読んだがいずれも面白かった記憶があり、ただし中身をぼんやりとしか覚えていない。普段聞いているポップスが近代クラシックに1つのルーツを求めることができるということが確か書いてあった。西洋音楽の歴史が丁寧に説明され、その辿りで今の音楽の始まりが理解できるというような旨だったはずだが。中身を忘れる読書とはいかにとも思うが。
『音楽の危機』では、第九を始まりのものとして、かつ代表の曲として、右肩上がりで盛り上がる音楽として取り上げられ、その時間の経過、音楽の終え方、そこのところに着眼点が置かれていた。いわゆる最後に盛り上がって終わる型の音楽だ。そんな音楽の賞味期限が切れているんじゃないかといった話。そこで新たな時間経過の型が表現されるべきだと。また、生の音楽と録音された音楽とは異なると強く主張される。同じ空気を吸えないことには人は耐えられないのではないかという問題や、暗黙に音楽に前提されるパッケージをどう考えるかということなどが絡む。音楽の本なのにそれだからこそ人の根っこの話になるのが読んでいてとても面白かった。録音された音楽は美術に近く孤独なものという指摘も面白かった。実際にどういう場所でどう音楽を聴くかのアイデアも書いてある。社会の中での音楽の在り方も論じてあるし、音楽以外のことを考える上でも参考になりそうに思った。クロマニヨンズが、バンドで集まり演奏するだけで楽しく、観客がいたらさらに楽しくて、観客はいかなる反応でもよく、ただ突っ立っているだけでもいいと言っていたのを思い出した。つまり近代のボックスとしてのライブ空間での盛り上がり型の音楽でありながらも、観客には盛り上がりを特別には求めないというのも、実際には盛り上がる人が大半だろうが、面白い話だなと思う。本を読み、人が集うこと、音楽をやること、聴くこと、一人になることなど、漠然とそんなことを思い巡らした。