dmachiの日記

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『夢酔独言』感想

 勝子吉の語る自伝。不良具合が面白い。侍だが、幕府にお勤めをする職にはありつかず、商売をやったり、もめ事をまとめたり。1840年頃のものと思うが、江戸の後期、維新の前、この本を読むと改めて、士農工商身分制度の堅牢さを知る。農民の前で芝居を打ってもめ事をまとめる話も出てくるが、その武士と農民の関係が身分の上下を物語る。結局、小吉は幕府の側から農民を罰するぞと脅してそれがよく効く。

 身分制度がきっちりしていて江戸時代は統制的な管理社会で不自由な時代という印象だが、小吉と人の交流を見ると自由な感じも受ける。変に細かくない。小吉が高い身分なのと、その不良さのせいもあるだろうけど、それだけでもなくて、小吉が子供の時家出をして漁師の家に住んだ話でも、その漁師が小吉を見込んで漁師にさせようとする。それが嫌で小吉はその家の金を盗んで江戸に帰る、その語りの雰囲気が格式張ってない。仏教か神道かの儀式をする詐欺にあった話でも、その詐欺師は幕府の内側の者に話をつけてあって官許で仕事をしている。こうして書いていると、結局小吉の身分の高さと独立心が自由の雰囲気をこの本に作っているのかとも思うが、テレビもネットも無いから各地で勝手にやっていた度合いは高かったんだろうなとは思う。しかしまあ江戸は大都市で豊かだったろうけど、地方は貧しかっただろうなあなど想像させられる。あとやっぱり稽古をつけた武士が刀を差して威張っていたらそりゃ他の身分とは別だとも想像させられた。