dmachiの日記

読書メモなどです。

読書メモ

 『幻燈辻馬車』山田風太郎著1976年。

 自分の手を汚さずに、愛する女を利用し堕落させようとし、というより愛していないからこそ自分の手はきれいなままにして、理想のために女を堕落させることさえする、そういう人間のやることと言えるのかという様。とか、自由や民権という大義のために、罪のない者を虫のように殺すこと、など、そういう若者の熱情と未熟さ、自らの行為への理解の不充分さ、ないし哀れさ、そしてそのことへ人情のある眼差しと共に、相対する覚悟で接す年寄り。そして時代の中での人と人の織り成す綾の運命の非情。あるいは悪党達の怪物さ加減。読んで、思いつくところでそういうものが浮ぶ。そういう複雑な状況の中でも貫かれてしかるべきものを貫く登場人物達。そういう貫ぬかれるべきものがこの小説にちゃんとある。