dmachiの日記

読書メモなどです。

『ためらいの倫理学』感想

 2001年内田樹著。戦争や性、語り口の問題、物語の周辺についての論考集。書かれてあるのは、解説にあるが、極端でないものの考え方による論。極端でない考え方でいかに物事を理解できるのかというようなもの。でも極端でない考え方ながら徹底的に物事に切り込んでいて、かつ平易に書かれている。

 関心があったのは、「それではいかに物語るのか~ためらいの倫理学」という本の終盤。「物語を語るものはほとんど宿命的に自分の起源について嘘をつく」とあり、知の徹底性への疑惑から逃れるために、哲学者はその反省の究極において「物語」を見出すのだが、見出したとたんにそれが自分で創り出した「物語」でしかないことを構造的に忘却する、とある。本の最後はカミュについての論考だが、カミュは徹底的に知的であろうと努めた人だと思うが、そのおかげで豊穣な物語を描けたという。

 この物語に関する話が興味深いのだが、どういうことなのかよくわからなかった。とりあえず哲学者が反省の究極において物語を見出すことで、生活者の地点に戻っていくということを覚える。百物語のような短い話の集積もあれば、長く果てしの無い物語もある。なんか文学や小説が読みたくもなる。