dmachiの日記

読書メモなどです。

『「あの世」と「この世」のあいだ』感想

 2018年谷川ゆに著。平田篤胤の研究の著作のある著者の、日本各地の神のいる場所を旅した記録。近代の自然と離れた都市の中に暮らし、政治や経済を中心とした都市社会で暮らす者が、今も残る自然や神や死者と人が響き合う場所に向かう。何万年も人は自然と共に暮らしてきた。その中にある感性を、今の人の身体にも宿る古代と著者は言う。著者は自ら旅をして、体験したことを語る。霊的なことはえてして近代的な合理的な実証的な言説となるか、オカルトになるかだが、著者はそのどちらでもない語り方は無いかと本書を書いている。これは宗教性に関わるものだと思うが、『不干斎ハビアン』に現代に宗教的個人主義が台頭しているとあった。個人が単位となって社会の秩序が営まれている側面が大きいからそうなる流れはあって、しかしまた、それだけで共同体が作られて秩序づけられるのかはわからない。あるいは、個人が身体を共に使う秩序でなく、どちらかといえば、ある規則なりルールを守り秩序を作るという雰囲気なので、人の身体性にあるもの、その心にあるものが持てあまされているという感じもする。そんな状況を今生きる人たちはそれぞれ生きているのだと思うけど、そうでない場所もある。その場所で身体の中の古代を共鳴させることもあり得る。そのことが窺われた。副題が、たましいのふるさとを探して、とあり、ふるさとというものも考えさせられる。今はある特定の場所という価値がなおざりにされてきた。車社会で電話もネットもある。そんな中でも人はある特定の風景の記憶を持ちたい、あるいは思い出したいのではないかとも思う。そういうことを考えさせてもらえた。