dmachiの日記

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『江戸の思想史』感想

 2011年田尻祐一郎著。タイトルの通り、江戸の思想をその時期の社会背景と共に紹介してくれる。あとがきに、思想家の思想と全体の思想史を共に面白く表したいとあったがその通りに面白かった。色々な人が色々考えていたのがわかる。仏教や儒教道教神道国学蘭学やそれらを踏まえて独自に思想したものなど様々。

 歴史の詳しくはわからないが、江戸の中でも18世紀から19世紀になると、貨幣経済が盛んになり、商人や豪農が豊かになり学識を持った。また、日本の周りの外国の往来も江戸の人の視野に入ってきて中華に対する日本だけでなく、ヨーロッパの学問や脅威に対しての日本という意識も形成された。そんな中での思想。多くの人が本書には登場する。伊藤仁斎荻生徂徠が気になった。また、山片蟠桃の何も世に不思議なことはないという考えには、市場で生きる商人らしいなという感想を持った。江戸の初期には、大きく世界や人のことを考えた傾向があるが、貨幣経済の発達や、蘭学の輸入などの影響か、徐々に個別の分野を考えた人が出てきた模様だ。そしてそれは、とても強く固定されていた幕藩体制身分制度への批判の視座をも生んだ、そんな印象を持った。江戸の初期から、既存の思想、儒教仏教神道に対する批判は行われていたようで、統制的な管理社会という江戸のイメージはあるがしかし批判が表現されていたようだ。だから江戸から明治にかけては社会体制が大きく変わるが、考えるべき人がしかるべきことを考えていたことで、割合スムーズに移行できたのかもしれない。明治の工業化も江戸の職人の技術や倫理のおかげでスムーズに行ったと、確か橋本治が言っていた。

 江戸という都市は、大都会だった。だから、その歴史には学ぶべきものが多くあるのだろう。その秩序の在り方や変遷、文化、思想、政治。もちろん今の社会制度とは違う。けれど、差別があったが、しかし、負の側面ではない、今の社会に忘れられているものもあったと思う。まあ、とにかく、江戸期の日本は全体で固い身分制度の元で調和が取れていたという印象は強い。だから、商人の石田梅岩は、その秩序そのものを天道とすら言った。開国して日本は尊王攘夷尊王開国の道を行った。分権的な秩序から中中央集権的な秩序だ。中央集権は地方の自主が制限される。さらに論をすすめれば、現代は経済的な寡占や管理が進むので、少数集団や個人の自主が制限されている。まあ、思想史を元に社会論みたいなことの考えの種をもらった。幾人か思書書を読みたくなった。人間や道理や社会をどう考えるかという点で今も昔も必要なことには変わりはない。だから、今の時代を考える上で、世の中の制度の違いはあれど、考える態度は参考になるのだろうなと思った。