dmachiの日記

読書メモなどです。

『神は詳細に宿る』感想

 2019年養老孟司著。雑誌に寄稿した文章をまとめたもの。一番最初の「煮詰まった時代をひらく」という文章が、今の時代をまとめて語っていて面白い。他のはいつもの養老節の調子を現在の雰囲気で語る。その中で印象に残った言葉を挙げると、「人生の意味は自分の中にない」と、これはフランクルの言葉として書いてある。極限状況を経験をした人の言葉で重い。「起こった世界に言葉が付け加わったもの=人間にとっての全世界です。だから、言葉の付け加わり方は世界を豊かにする、というのが私の結論です」。言葉の意味は世界を豊かにすることだというシンプルな答え。あと、「ディティールというのは人間の世界で保存していると傷つきやすい」。だから、敏感な人は傷つきやすく、都会の人間はできるだけ鈍感になる。できるだけ違いやディティールを気が付かないようにして考えを同じにする。そして違いが目立たなくなる。そうした中で許される違いは感覚の違いではなく、概念の違い。概念ということに変わりなく、概念の整理の仕方の違いにできる、という。概念の整理の仕方の違いであれば、それが直接的な衝突にならないということだろう。

 どうも達観した思考だ、というのが読んでの感想。いろんな物事を冷静に見抜き、見抜くだけでなく、それがどんな性質の物事で、人や社会にとってどう関わってくるものかという判断がとても凡人には見えないところを見ていて、かつ至極穏当な着地がいかなるものかを知っていると思わされる。だから納得させられためになる。