dmachiの日記

読書メモなどです。

『不干斎ハビアン』感想

 2009年釈徹宗著。1600年前後の信仰に生きた男の話。元は禅僧で、棄教しキリシタンになり、仏教儒教神道を批判してキリスト教を護教した『妙貞問答』を書き、その二十年後にキリスト教を棄教し『破提宇子』で批判を行ったハビアンという人の話。

 彼についての言説と、彼の著作と、彼の人生での出来事を追いながら、著者がハビアンのことを語っていく。最後はハビアンは「野人」と自分を称したが、様々な宗教を体系的に学習し、教団で体系的に修行し、異なる宗教の人との議論をしながら、駆け抜けたその営為は宗教的だったと著者は言う。著者自身が僧侶であり宗教学者であることもあり、信仰や宗教についての説明に説得力がある。ハビアンを追う途上で、一般的な宗教についての印象を無視せずに、宗教について理解を深ませてくれる。

 個別のことでは、絶対というそれまで日本に無かったキリスト教の概念は、一神教の神にまつわるが、だからこそ、一神教多神教の神を同列に比較するのは、ずれていて無理な話になることがためになった。けれども、日本の多神教の中にも絶対的な神、例えば浄土仏教の阿弥陀のようなものもある。弱者救済のための宗教は一神教的になりやすいという。しかし阿弥陀様は、キリスト的な神のような人と隔絶した絶対の抽象のものではなく、どこかで人や自然とつながったものらしい。あと、自然法爾という親鸞の言葉は興味深い。人間や人工と対立するネイチャーとしての自然ではなく、自ずから然るという意味での、自然。なぜ浄土宗でその考え方が出たのだろうとも思った。