dmachiの日記

読書メモなどです。

『脳と仮想』感想

 2004年茂木健一郎著。脳という物質的要素で捉えられるものと、近代科学の物質に還元して法則を立てる方法では説明できない意識やクオリアというものがあり、仮想として人が持つものを手掛かりにしながら、人というものを脳やクオリアと絡ませながら語る。

 普通に文章に散りばめられる教養に触れることが楽しく、また、個人的体験と絡ませながら語るその語り口も味なのだが、基本的には、この本で書かれようとしていることは、人には語りえないようなものを語っていこうというものそのもの。例えば、記憶で言えば、生まれる前の記憶についても語られる。父母出生以前の面目という禅の問答があるらしく漱石が好んだらしいが、そういうものについても、科学の知識、文学の知識、経験を絡ませつつ語る。無論単純なスピリチュアルなものじゃない。そういうものではなく、普通に考えて語りえるものを語っていくというもの。

 そういう本の中で印象に残ったのが、「何かを思うこと自体が現実を変える力を持つということを本気で信じていた時代の人々の世界観を、私たちはもはや想像するしかない」。それは例えば平安時代の世界観だ。彼らは普通に思いと共に幽霊や神々があった。そういう世界観。古代の人々は神々と共にあり、神の声を聴き、その声は人々に影響を与えていた。ということが、『多神教一神教』で書かれていて、二分心という仮説もあるが、それを平易な言葉にすると、上記の、何かを思うこと自体が現実を変える力を持つという世界観になるかもなあと思った。思いと自然の動きがそこではつながっている。そしてそれを今我々は想像するしかない。ただその心性は、人間に宿っているのではないか。人間自体が何万年も身体的に変わっていない。歴史もある。そこのところを著者は追う。著者のこの本書の続きがあるなら読みたいなと思った。