dmachiの日記

読書メモなどです。

読書メモ

 『21世紀の脳科学』、原題が「SOCIAL Why Our Brains Are Wired to Connect」2015年(日本)。以下メモ。

・自分を取り巻く周囲の環境や人間関係において他者や状況を理解したりどう行動するかを思考することを「社会的思考」、論理的思考や抽象的思考などを「非社会的思考」 と分けられる。それらは脳において異なる領域で扱われ、かつ、一方がオンになると一方がオフになるという風にたがいちがいに働く。

・社会的思考、社会的知性、その脳内のネットワークは、生後2日の新生児の脳でも活動している。

・人が何もしていない空いた時間において、社会的知性のネットワークがデフォルトとして活性化されている。つまり。他者に注意を向けたり、相手の考えや気持ちなどに注意を向けたりする知性が、人にとってデフォルト設定になっている。

・身体的苦痛と社会的苦痛が同じ脳神経メカニズムを共有している。人にとっては未熟な子供は、社会的つながりが断たれることは脅威であり、養育者を呼ぶため鳴き声を出して警報を鳴らす。

 その警報機能の一つが、「矛盾の監視」と、「エラーの検出」で、それらが社会的苦痛に関わる情動と関わっている。

・「人から好意を持たれる時」と「相手の世話をする時」、それぞれ異なる脳のプロセスが関係する。二種類の社会的報酬として。前者はオピオイド、後者がドーパミンオキシトシンというものが関わるらしい。

・手をコップに伸ばす行為において発火する神経細胞が、誰かが手を伸ばすのを見た時も同様に発火する。というミラーニューロンの話。鏡として運動共鳴している。

・ミラー系とメンタライジング系がある。ミラー系はかなり自動的に活動し、人が何を行っているかの理解につながる。つまり単なる運動ではなく意味を持った行為への理解へと。メンタライジング系は、他者の目的や意図や望みなどを心理的に分析することにつながる。「なぜ」を理解するためには、ミラー系が前提的に活動していることが第一歩であり、その上でメンタライジング系も働けるということが強調される。

・小説をよく読む人はメンタライジング能力が発達している。

・自己を見るときと、自己を(概念的に)知るときとでは、働く脳内の領域が異なる。デカルト二元論のようにこころと体という風に考えがちな傾向というものは脳の機能としてある。

・自分が自分をどう思うかという直接的評価の際に働く領域と、人にどう思われているかと思っているかという反映的評価の際に働く領域は異なるのだが、思春期の人においてどちらの場合も、両方の領域が働く。

・自分とは誰なのかという概念的な自己感は内側前頭前皮質により社会的に作り上げられる。

・自己感は、私たちが集団の規範に合わせ、社会の調和を生み出すための仕掛けであり、自己は集団にうまく溶け込むために働く。

 一昔前まで人間にとって人生は、世話をするかされるかのどちらかであった。それ以外のための時間的余裕はなかった。

・自制的であるということと、大学適正試験の成績に相関がある。おいしいマシュマロを我慢できることと、試験の成績の高さが相関する。

・現代、アメリカでは人が持つ人生を分かち合う信頼できる相手の人数が減っている。人生を豊かにする社会的つながりを失いかけている。

・社会的間食という概念。友人や恋人に会えない時に、彼らのことを考えたり、彼らの写真を見たりすることをいう。支えてくれる人がいる、誰かとつながっていると思えれば、困難に直面した時にストレスやつらさが和らぐ。

・大学の卒業生に寄付をつのるコールセンターの仕事において、奨学金で助けられたという人を五分会わせると、その後、コールセンターの電話をかける時間が42%伸び、寄付額が71%増加し、その変化は一か月続いた。

・社会的思考と非社会的思考は同時には働きづらい。非社会的思考は活発化の方法論が仮にわかりやすいとして、社会的思考の活発化の訓練の一つとして、運動自制の訓練があり、それにより感情の自制心が養われる。組織の上司やリーダーは、社会的思考を持った方が、そのチームの業績が上がるというデータもある。現代、目的を達成する能力などの非社会的思考のみを評価する傾向にあるきらいがあるが、社会的思考としての対人能力を評価するのがよい。

 

感想。専門的な部分は分らぬが、一般向けに書かれてあり、脳科学の成果を大まかに知れた。といっても、この本で強調されるのは、社会的思考と非社会的思考という区別だ。そして自己というものが周囲があり成り立つものだから、自制心を鍛えることが集団の協調へとつながる。その際に、やはり社会的思考という概念と共に実際の科学の知見、データを参考にすれば、よりよいものになる、と。脳科学の成果がどれだけ社会の考え方にまで浸透するのかなどは思う。著者は最後の章で実際の組織への応用をも書いている。しかし少なくともこの本にも書いてあるような知見で個人個人において参考にできることは大きいと思った。