dmachiの日記

読書メモなどです。

『宗教なんてこわくない』感想

 文庫で1999年、橋本治著。三回目くらいに読んだが凄かった。著者は、オウム真理教の起こした地下鉄サリン事件の後に、オウム真理教について書く、というところから本書を書き始めているが、その視野は広く、仏教やキリスト教や日本の歴史や社会を見渡し、どこにその視座を置いているのかと想像してみたくなるほどに、的確に物事の有り様を説明していく。一つの方向から物事を見れば、その反対側は疎かになるし、あらゆる方向から物事を見ようとすれば、物事と物事の関係性や、見ている自分のことを忘れがちにもなろうものだろうが、著者の論理にはそういうことがない。なさそうに読める。というか、ある物事を語ることに、普通色々な側面があるということはちょっと考えればわかるが、だからといって、その色々な側面の内実を理解し、論理づけることは常人には困難だ。それを著者はしている。そして、それをわざわざ強調して言いたくなるくらいに、本書はわかりやすく明快に書かれてある。

 そういう凄さに着目したくなるが、しかし書かれてある内容がいい。例えば、素人にはわかりにくい小乗仏教大乗仏教の違いを著者は、出家者のための一つの仏様を拝む仏教と、在家者のためのかつ出家者が在家者を助けようとするもののための複数の仏がいるような仏教だという。そこにはさらに説明が続くのだが、要は、本書では、いろんなことをわかりやすくお話として語ってくれる。そして読者はそういうものかと納得できる。そういう納得のお話が、いくつもある。いくつもある話を読んでいると、日頃もやもやと考えていたものが腑に落ちたりもするし、それでは、あれはどうなのかと展開できたりもする。そして宗教の話からあまり出てきそうもない愛情や友情の話もある。著者は作家だから物事をわかりやすい話にして語ることができるとも言えるかもしれないが、けれども、ただわかりやすくするために物事を丸めて話にするのではなく、人の事実や真実を含ませた話を心ある語り口で語ってくれる、そういう風に思う。まあ、そんな語り口の話にもなってしまう。なかなか中身はどうだったのかという話に気がいかない。本書は大きな話を単純に要約して説明している。読んでよかった。